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*言うまでもなく、ベトナム語はベトナム社会主義共和国の公用語で、国内の8000万人以上に話されていますが、それだけでなく、隣国のカンボジアやラオスにもベトナム人が暮らしています。また歴史的に関係の深いフランスや、1975年の南北統一後に移住していったアメリカを始め、カナダ、オーストラリアなどにも数百万人が住んでいますので、ざっと8500万人程度の人たちの言葉となっています。ベトナム語というと縁の薄いマイナーな言語の印象がありますが、決してそうではなく、世界に何百だか何千だかある言語のうちの10指とはいかないものの、20指には入る一大言語と言えましょう。

*ベトナムは近代において、一時期フランスの植民地であったり、ベトナム戦争時アメリカの介入があったことなどのため、フランス語あるいは英語がかなり普及しているのではないかと思われがちですが、一般にはかなり通じにくい方でしょう。観光旅行の場合はともかく、ベトナム語が分からないと生活の上で大変苦労します。市場の買い物からバス通勤、ベトナム料理の注文まで全部ベトナム語。しかし、ベトナム語学習のネックとなっているのは発音だけ。日本、朝鮮、ベトナムは中国のお隣にあって、言語の上でも大昔から強い影響を受けてきましたから、それぞれの言葉も漢語的要素を共有しており、その意味では日本人にとってベトナム語は勉強しやすいと言えるのではないでしょうか。

*日本語の平仮名、片仮名は漢字を崩したり、その一部を使って作られたものですが、これができる前は漢字そのものが使われていました。ベトナムでも同じで、長い間、公式には漢字・漢文を使っていました。しかし、中国語とベトナム語は系統の違う言葉ですから、漢字・漢文では隔靴掻痒。そこで考え出されたのが漢字を改造してベトナム語を表記する字喃(チューノム)という文字です。これは例えば、数字の五を「南五」と書いて、偏の部分(日本語で言えばナン)でナムという音を示し、旁の部分で5の意味を表しています。多くの例をここに示すことはできませんが、字喃は音と意味の表示位置が上下左右てんでんばらばらで、字画も元の漢字よりはるかに複雑であったり、そもそも漢字の素養がなければ使えないことから単に支配層や学者たちの専用で、一般の人々は相変わらず文字とは無縁だったようです。

*17世紀中頃、ヨーロッパからのキリスト教宣教師たちが宣教のために工夫し、19世紀末以降フランスが乗り出してくると、植民地支配の目的で普及強化されたローマ字利用の文字が現在使われている正書法です。アジアでも韓国・朝鮮やタイ、カンボジア、ビルマなどでは漢字でもローマ字でもない、固有の字を使っていますので、表記の点でもベトナム語は日本人に馴染みやすい。もっともローマ字の上や下に、母音の区別やアクセントを示すために独特の記号を多用しているので、街の看板を見て、まるで発音記号を読んでいるようだと言った人がいました。確かにローマ字に従って日本式にそのまま読んでも、ベトナム人には全く通じないでしょう。

*文法もこれまたやさしい。日本語のように「てにをは」は使いません。昔、中学で初めて五段活用だとか、上一、下一とか、か変だのさ変だのと面食らったことがありましたが、そんな活用もない。また英語のgo, went, goneのような時制変化もありません。ベトナム語は主語、動詞、目的語の順に言葉を置くだけでいいんです。つまり、「私」「読む」「新聞」、「あなた」「です」「日本人」とか、「彼女」「背」「高い」などというわけです。過去や未来についても動詞の前に特定の副詞を置けばよろしい。そして語彙については初めに書いたように漢語からの類推がかなり有効です。例えば「注意」はchu y、「学生」はhoc sinh、「独立」はdoc lapなどです。ただし、形容詞だけは日本語と違って、「かわいい子」を表すのに「子、かわいい」というように反対に言わなければなりません。

*そんな中で、一番厄介なのが発音でしょう。こればかりは大方の外国人が苦労しているようです。声調が6通りにも変化して、意味が全く違ってしまうのです。中国語の4通り、タイ語の5通りに比べても多い。それも単純に上げたり下げたりだけでなく、一度下げたのを上げたり、喉を圧迫するような詰まった音を出したりするので、当のベトナム人も「質問する時の調子」だとか「転んだ調子」などと妙な名前をつけています。例えば、「マー」を高く平らに発音すれば「お化け」、低くて平らなら「しかし」、驚いたときの「ええっ!」のように中間の音から高い音に一気に上げれば「頬」、「あ~あ、やんなっちゃった」の「あ~あ」のように、いったん下げて、最後にちょっとしゃくり上げたのが「お墓」、おなかを机の角にぶつけた時の「うっ!」のように低く詰まらせて、その後急に高く開放させるのが「馬」、また「うっ!」とうなったままにしておけば「苗」という具合です。そしてこれをさらに複雑にしてるのが、地方差です。ベトナムは南北に千七百キロもある細長い国ですから、北部・中部・南部の差がかなり大きい。特に中部の言葉は分かりにくいと言われています。

*しかし、私たちの耳にベトナム語は、本当に美しく聞こえます。一般にはフランス語や中国語がきれいだと言われていますが、それに勝るとも決して劣りません。夕暮れ時に市街を散歩していて、とある湖のほとりで若者が詩などを朗読している場面に遭遇すれば、韻を踏みつつ、豊かな抑揚を伴った節回しに、必ずや聞き惚れてしまうことでしょう。